1-4『アンデッドとの戦い・前編』


翌日

自衛隊、偵察部隊は二方面に向けて出発
一方は82式通信指揮車で越境し東の街を
もう一方は高機動車で北西の街を目指す


昼前 東方面偵察隊
グォォォォォォォ

偵察「よかったのかねぇ、シキツウ(82式通信指揮車)に乗ってきちまって?」

82車長「大丈夫だろ、203mm砲はしばらく出番がなさそうだし、
    こいつを使って指揮する程の事態にはならなさそうだしな。」

82操縦手「それに、機動性と装甲の両方を兼ね備えてるのは
     こいつだけですからね。」

偵察「普通科のLAV(軽装甲機動車)か96(96式装輪装甲車)でもあれば
   いいんだがな。」

衛生「無いものねだりしてもしょうがないでしょう。」

自衛「おい偵察、上がって来い。」

会話の途中で、車外から自衛の声が聞こえてくる

偵察「ああ、どうした?」

偵察は近くのハッチから車外へと半身を乗り出す。

偵察「なんかあったか?」

自衛はシキツウの屋根に座り、双眼鏡を構えている

自衛「連峰が見えた、山肌は結構深い森になってる…
   念のため、山に入ったら常時二名を監視として車上に上げる。」

偵察「わかった、82車長にも伝える。」

自衛「頼む。」

同時刻 北西方面偵察隊


隊員B「すごいですね…一面平野で遠くの山脈まではっきり見える。」

同僚「北海道でも見れる光景だけどな。人工物がまったくないから違和感は感じるけど…」

支援A「…そういや隊員C、もう怪我はいいのかよ?」

隊員C「ああ、なんとかな。けど、あのしわくちゃ連中のせいで
   危うく片腕になる所だったぜ…」

隊員B「しわくちゃ連中?」

隊員C「あのゴブリン共だよ、この借りはいつか返してやる。」

支援A「襲ってきた連中は全滅したけどな。」

同僚「やめとけ隊員C、辺に根に持つより、腕がついてたことに感謝するほうが
   建設的だと思うぞ?」

支援A「だってよ隊員C。」

隊員C「へいへい…」


東方面偵察隊は連峰の入り口へ到着


ブォォ…

82操縦手「たぶんここからでしょう、馬車の通った道が出来てる。」

82車長「よし、上がるぞ。偵察、前のMINIMIにつけ。」

偵察「了解。」

82車長と偵察が車上に上がる。

82車長「よっ…と、自衛、交代する。中に入って地図を見てくれ。」

自衛「わかった、頼む。」

交代で自衛は車内へと戻った

82操縦手「出します。」

シキツウは再び走り出し、山道を登り始める

自衛「えーと…この道だな、高等線がないから傾斜がどの程度かわかんねぇ…」

衛生「正直不気味な山ですね…なんか出てきそうだ…」

自衛「出てきそうじゃなくて、出てくるらしいぜ。
   街の市長から聞いたが、護衛無しでここを通るのは危険すぎるってよ。」

衛生「まじかよ…」

自衛「だからシキツウに乗ってきたんだ、うおっ!えらい揺れるな…!」

82操縦手「我慢して下さい、道といっても全然整備されてませんからね。」

衛生「山越えにどのくらいかかるんです?」

自衛「距離だけで見るなら、半日で三つの峰全てを越えられるはずだ。
   できれば暗くなる前に越えたい所だな。」

衛生「できれば何も起こって欲しくないぜ…」


数時間後


シキツウは二つ目の峰を越え、最後の峰に差し掛かろうとしていた

自衛「っと、82車長、見張りを交代する。」

82車長「おお、頼む。気を張りっぱなしだったが、結局何もなかったな。」

自衛「その方がいいだろ?あの峰を越えれば隣国の
   "月詠湖の王国"って国の領土に入れる。」

82車長「この調子なら、何事もなく辿り着けそうか?」

偵察「…おい、自衛。最後の峰の入り口に何か見える。」

自衛「何?」

自衛は双眼鏡を構える

自衛「あれは…集落か?」

偵察「そう見えるが…なんかおかしくないか…?」

82車長「遠目にも寂れてる感が伝わってくるな…」

自衛「衛生、地図を確認しろ。この近くに集落はあるか?」

衛生「えーっと…一応地図には表示されてますね。この地図自体が
   どれくらい前の物なのかは知りませんが…」

82車長「すでに打ち捨てられた可能性もあるってことだな…」

偵察「どうする?無視して進むか?」

自衛「…いや、一応調べておこう。82操縦手、あの集落に近づいてくれ。」

82操縦手「了解」


指揮車は村の入口まで近づき、そこで一度停車した

自衛「………」

82車長「まーた、分かりやすい寂れ具合だな…人の気配もないぞ…」

偵察「なんでこう、行く先々で必ず人がいないのかね?」

自衛「知るかよ、とりあえず…指揮車は一度ここから離れてくれ」

82車長「は、なんでだ?」

自衛「指揮車に何かあれば事だ、ここは見通しも悪い。
   ここに来るまでが坂になってただろう、そこからこの集落を監視しててくれ。
   探索は俺と偵察だけで行く」

衛生「大丈夫なんですか?」

自衛「何かあれば連絡するが、十分経っても連絡がなければ突入しろ」

82車長「わかった、気をつけろよ」


指揮車は一度村を離れ、自衛と偵察は村を探索する
集落は不気味なまでに静まり返っていた

偵察「おい、いつのまにか空が曇ってるぜ…風も止んでるし…
   なんか嫌な予感がしないか…?」

自衛「予感というより確信だな」

偵察「あ?」

自衛「あれをみろ…」

自衛は一軒の家屋を指差す

偵察「なんだ…?家の壁になにかが…げっ!?」

家の壁には何かの生き物の首がぶら下がっていた

偵察「まさか人間か!?」

自衛「いや…人間じゃないな。熊の頭に似てる気がする。」

偵察「なんだってそんなもんが…」

自衛「つるさげとくと、鬼がよりつかないんじゃないのか?」

偵察「鰯の頭じゃねぇんだぞ…」

自衛「とにかく進むぞ、なにかあったのは確からしい。」

自衛と偵察は物陰に隠れ、お互いをカバーしながら集落内を進む

偵察「おい、そこらじゅうの民家に動物の首がつるさがってるぜ…」

自衛「何かの風習って可能性もあるが…」

偵察「こんな風習のあるトコ、ろくなモンじゃ…」

オオオオオーーー…

偵察「な、なんだ今の!?」

自衛「人の声か…?」

オオオオオーーー…

偵察「…にしては、ずいぶんホラーテイストだな…!」

自衛「十字路の先からだ!」

自衛と偵察は十字路にある角の家の壁に隠れる

オオオオオーーー…

オオオオオオーーー…

ザッザッザッザ…

自衛「近づいてるぞ!」

偵察「待った!ちょっと待った!俺達、これ大丈夫なのか!?」

自衛「もう、手遅れだ!」ジャキッ

自衛は小銃を構え、十字路の先を窺おうとする

君路の勇者「うわぁっ!?」

自衛「おわッ!?」

次の瞬間、走ってきた人物と衝突しそうになった

君路の勇者「くそッ!回り込まれ…って、君は!?」

自衛「お前…勇者か?」

偵察「何、勇者!?」

君路の勇者「君達、どうしてこんな所に…?」

偵察「それはこっちのセリフだぜ!それに…」

自衛と勇者の視線は勇者の後ろに注がれる

?「ううっ…」ビクッ

そこにいたのは十代後半と程と思われる娘だった

君路の勇者「大丈夫、村娘さん。彼らは僕の知り合いなんだ」

村娘「は、はい…」

勇者は怯える彼女に安心させるように言う

自衛「誰だそれ?村で会った時にはいなかったよな…?」

勇者「ああ、この娘は…ッ!!話は後だ、今は逃げるのが先だ!」

偵察「逃げるって…」

オオオオオーーー…

君路の勇者「ッ!来たか!」

自衛「ああ?…なんだありゃ…!?」

村人A「オオオオオーーー…」

村人B「オオオオオーーー…」

村人C「オオオオオーーー…」

道の向こうから、何十人もの人間がゆっくりと近付いて来る

その中にはクワやシャベルなどを持つ者もいた

偵察「おいやべぇだろあれ!」

自衛「ッ!」ジャッ

自衛は小銃の引き金に指をかける

君路の勇者「駄目だ、やめてくれ!あれはここの村人なんだ!」

自衛「村人!?」

偵察「でもあれ、どう考えても殺す気満々だぜ!?」

君路の勇者「詳しいことは分からない…とにかく今は逃げるんだ!」

偵察「最悪だ糞ったれ!」

偵察の悪態と同時に四人は走り出した

自衛「一体何があったんだ!?」

君路の勇者「わからない!僕達も先程この村に着いたばかりなんだ!」

自衛「そういや、お前の仲間はどうしたんだ!?」

君路の勇者「騎士と僧侶とは別行動中なんだ!戦士は…囮になって
      最初に遭遇した村人達を…!」

偵察「まじかよ…やばくねそれ…」

自衛「今は俺達もやばいけどな!右の路地から来るぞ!」

路地から村人の集団が現れる

君路の勇者「左からも!」

偵察「進路を塞がれたぜ、おい!」

合流した村人達により前方の道が塞がれてしまった

自衛「屋根だ、屋根に上がれ!勇者、その娘をつれて飛べるか!?」

君路の勇者「え、ああ。」

自衛「上がったら目を閉じて耳を塞ぐんだ、急げ!」

君路の勇者「わ、わかった!村娘さん、つかまって!」

村娘「は、はい!」

勇者は村娘を抱えると、屋根に目掛けて跳躍した。

自衛「偵察、壁越えの準備を。」

偵察「わかった。」

自衛はスタングレネードを取り出す。

自衛「昨日から大活躍だな、効いてくれよ。」

自衛はスタングレネードのピンを抜き、村人達の足元へと転がした

自衛「よし、目と耳を塞げ!」

次の瞬間響き渡る閃光と轟音

村人D「あああああーーー…」

村人E「あああああーーー…」

自衛「効果はあったみたいだな、偵察、上げてくれ。」

偵察「あいよ。」

自衛が偵察の補助を受け、民家のベランダへ登る

そして上がった自衛が、今度は偵察がよじ登るのを手助けする

それをもう一度繰り返し、二人は屋根の上へと上がった

自衛「勇者、大丈夫だな?」

君路の勇者「ああ、だが村の人達は大丈夫なのか…?」

自衛「あれは目くらましだ、音と光だけで一時的に錯乱してるだけだ。」

君路の勇者「そうか、ならいいが…とにかく今は村を出よう」

自衛「そういや、戦士のねーちゃんは大丈夫なのか?」

君路の勇者「当然心配だが…戦士は自ら囮になってくれたんだ、それを無碍にはできない、
      この娘を安全な所まで連れていくのが最優先だ。」

自衛「わかった、とにかく村を出るぞ。」

君路の勇者「さあ行くよ、足元に気をつけて。」

村娘「は、はい。」

四人は屋根伝いに村の出口を目指す

自衛「…!?勇者、伏せろ!」

君路の勇者「!?」

自衛の声に反応し、勇者は村娘を抱えてその場に伏せる

村娘「きゃっ!」

次の瞬間、二人の頭上を黒い物体が飛び去った

偵察「今度は何だよ!」

君路の勇者「…あれは!」

物体が飛び去った方向を見る

そこにいたのはコウモリのような翼を持った暗い灰色の物体だった

偵察「…コウモリ…なわけねぇか」

君路の勇者「ガーゴイル!どうしてこんな所に…!」

偵察「見ろ、一匹だけじゃねぇぞ…!」

四人の周辺には十数匹のガーゴイルが飛び交っている

そのうちの一匹がこちらに向けて飛び掛ってくる

偵察「おい、こいつは撃ってもいいよな!?」

君路の勇者「あ、ああ!」

偵察「野郎!」ボウッ

偵察は間近に迫っていたガーゴイルに向けて、ショットガンを撃つ

被弾したガーゴイルは粉々の石片となって降り注いだ

偵察「だっ!?痛でッ!何だこれ!?」

自衛「こいつら岩でできてやがる!」

偵察「岩の人形かよ…サプライズに事かかねぇな…!」

ガーゴイル達は四人のの上空を飛び回り、こちらを狙っている

君路の勇者「僕がやる!自衛、この娘を頼む!」

言うと勇者は足に力を入れ、上空に飛び上がった

偵察「すげぇ、10mは飛んだぞ…」

飛び上がった勇者に一匹のガーゴイルが襲いかかる

君路の勇者「はぁぁ!」

勇者は空中で剣を引き抜き、ガーゴイルを真っ二つに切り裂いた

君路の勇者「はっ!次だ!」

勇者はガーゴイルの断片を足場にさらに飛ぶ

君路の勇者「だぁぁぁ!」

ザンッ!

そして別のガーゴイルを両断した

自衛「あいつも十分化けモンだ…」

偵察「おい、こっちにも来るぞ!」

ガーゴイル数匹が自衛たち目掛けて襲い掛かる

自衛「頭を下げてろ!」

村娘「わ、わかりました!」

ダダダ!ダダダ!ダダダ!

自衛はガーゴイルに向けてバースト射撃を行う

最後の三発が翼の付け根に命中し、ガーゴイルは体勢を崩す

自衛「おわッ!?」

村娘「きゃあ!」

ガーゴイルは自衛たちの側を掠め、そのまま向かいの家屋に激突した

自衛「やばかった…無事か?」

村娘「だ、大丈夫です…」

偵察「まだ来るぞ!」

次のガーゴイルが真上から突っ込んでくる

ボウッ!

偵察の発砲した散弾が命中

ガーゴイルはそのまま落下し隣の家屋の屋根に激突
そのまま屋根を突き破り一階へと落ちていった
だが、さらに別のガーゴイルが左翼より襲い掛かる

偵察「しつけぇんだよ!」ボウッ

散弾に翼を撃ち抜かれ、ガーゴイルは墜落する

自衛「勇者が戻ってくる。」

ヒゥゥ…

君路の勇者「っと!」ダッ

勇者が屋根の上に着地する

その直後、三匹のガーゴイルが地面へと落ちていった

偵察「ほんとすげぇなあんた…」

君路の勇者「ありがとう…でも数が多すぎる、全てを相手にするのは無理だ…」

村娘「あ、あの!下を!」

偵察「なんだ…げっ!村人がわんさかいやがる!」

君路の勇者「くそっ、追いつかれたか!」

自衛「逃げるぞ、ここにいたらやばい。」
君路の勇者「僕が先に行って、進路切り開く!」

自衛「俺は後ろを見張る、偵察!その娘の周りを警戒しろ!」

偵察「了解!」

四人は再び屋根の上を進みだす

途中、襲い掛かる敵を勇者と自衛が撃退

接近してきたガーゴイルは偵察が撃ち落とし、隙を見て走り抜ける

偵察「キリがねぇぜ!」ボウッ

君路の勇者「がんばれ!もうすぐ村の出口だ!」

しかし、村までもう少しという所で広場に出て、家屋が途切れてしまう

君路の勇者「ああ、くそっ!」

自衛「下に降りるしかねぇな…」

偵察「少しでもモタつくとやばいぞ!」ボウッ

自衛「勇者、こっちが先に降りて援護する、もう一度その娘を頼む。」

君路の勇者「わかった、気をつけろ。」

自衛が家屋の窓や庇を利用し、先に道へと降りる

自衛「…よし、急げ!」

次に勇者が村娘を抱えて飛び降り、最後に偵察が降りる

自衛「よし走るぞ!」

全員が道に下りると同時に、四人は走り出す

すぐに広場を抜け、再び住宅街に足を踏み入れる

偵察「おい、また屋根に上んねぇのか!?」

君路の勇者「あそこの角を曲がれば出口はすぐだ!走ったほうが速い!」

次の瞬間だった、家屋の直上から一匹のガーゴイルが現れ

勇者目掛けて突進してくる

君路の勇者「!!」

村娘「勇者様!」

ドンッ

君路の勇者「…ッ…どうなったんだ…?」

村娘「…痛っ…」

君路の勇者「村娘さん!?」

先程まで勇者のいた場所に、村娘は倒れていた

ガーゴイルは襲撃をあきらめ反転、上昇して行く

偵察「逃げんな!」ボウッ

しかし偵察により撃ち落された

君路の勇者「村娘さん、大丈夫か!?」

村娘「だ、大丈夫です…襲われてはいませんから…痛っ!」

自衛「足を挫いてるぞこりゃ…」

君路の勇者「くそっ、僕を庇ったばっかりに…!」

自衛「悲観するのは後だ!偵察、ショットガンをよこせ。この娘を頼む。」

偵察「了解。」

偵察は自衛へショットガンを渡す。

偵察「嬢ちゃん、ちょっと我慢してくれよ。」

村娘「は、はい…ひゃっ!」

偵察は村娘を抱え上げる

君路の勇者「すまない…」

自衛「悔いるのも後だ、突破にはお前が必要…ッ!」

偵察「おいどうし…げぇ…!」

彼らの目に最悪の光景が飛び込んできた

村人F「オオオオオーーー…」

村人G「オオオオオーーー…」

君路の勇者「しまった…回りこまれた…!」

角の先から大量の村人が迫ってくる

村娘「う、後ろを!」

偵察「うそだろ、おい!」

反対側の道も村人の大群で埋め尽くされている

勇者「屋根の上にもいるぞ!」

村娘「ろ、路地からも出てきます!」

偵察「冗談じゃねえぞ馬鹿野朗!」

自衛「家の中だ!家の中に入れ!」

四人はすぐ近くの家屋の中に飛び込む

偵察「嬢ちゃん、奥に隠れてろ!」

村娘「は…はい…!」

自衛「入り口を塞げ!」

勇者、自衛、偵察の三人は家の中の物を手当たり次第
入り口に積み上げた。

偵察「冗談きつすぎるぜ!」

自衛「家の反対側に出るぞ!」

村娘「きゃぁぁぁ!」

君路の勇者「!、村娘さん!?」

家の奥から村娘の悲鳴が聞こえる

村人H「おおおーーー…」

村人I「おおおーーー…」

君路の勇者「くそっ!反対側にも!」

偵察「おい、待て…こいつらおかしくないか…?」

自衛「そんなもん、今に始まったことじゃ…あぁ…?」

偵察と自衛は初めて村人を間近で見た

その肌は変色し、皮膚が所々崩れ落ち、眼球は血走っていた

偵察「これって…まさか…」

自衛「だろうな」ボウッ

自衛は入り込んできた村人に発砲する

村人H「おお゛っ…!」バシュッ

村娘「ひぃっ!?」

君路の勇者「な、なんてことを!」

偵察「邪魔するな勇者!それに、きっとこいつら全員とうの昔に死んでる…」

君路の勇者「はぁ!?な、なんだって…?」

ボンッ!ボンッ!

自衛は入り込んだ村人を撃ち殺してゆく

自衛「裏口を塞げ、急げ!」

君路の勇者「わ、わかった!」

勇者と偵察が裏口をバリケードで塞ぐ

自衛「偵察、二階を見てきてくれ。」

偵察「オーケー。」

自衛「ああ、それとショットガンを返す。」

偵察にショットガンを渡すと、自衛は村人の死体に目をやる

村娘「………うぅ」

自衛「下がってろ、しかしえぐいな…」

君路の勇者「なぁ、どういうことだ…彼らはすでに死んでいるだって…?」

自衛「ああ、こいつの体を見ろ、すでにあっちこっちがかなり腐食してる…」

君路の勇者「だが、ありえない…なぜ、死んでいる人間が僕らを襲ってくる!?」

自衛「それを聞きたいのは俺達のほうだぜ、こっちには死者を生き返らせたり、
   ゾンビにする魔法とかがあるんじゃないのか?」

君路の勇者「ありえない、アンテッドは伝承上で語られる存在で
実際にそんな魔法も方法も聞いたことが無い。
…いや、僕が存在を知らないだけかもしれないが…」

自衛「…(あるかもしんねぇ、ってのが笑えねぇぜ)、まぁいい、
   今はこの状況を何とかするのが先だ」

偵察「おい!二階も塞いできた、だがそんなに長くは持たないぞ!」

自衛「どうする…」

ミシミシミシ…

偵察「な、何の音だ!?」

君路の勇者「表のほうの壁から…!」

バリッ、ガシャーーン!

次の瞬間、表通りに面した壁が突き破られた

村人F「おおおおーー…」

村人G「おおおおーー…」

偵察「げぇ!?」

君路の勇者「壁が耐え切れなかったのか!なんて数だ…くっ!」

勇者は自分の剣に手をかける

君路の勇者「くそ…!」

ダダダッ!

村人F「お゛ッ!」ビシュッ

自衛「勇者、躊躇うな!」

君路の勇者「ぐ…でやぁぁぁ!!」

勇者は意を決し、剣を振り払う

その一閃で、十人近くの村人が一気になぎ払われた

偵察「…すげぇ…」

自衛「撃ち続けろ!」

自衛たちは、屋内に迫る村人達を撃退する

勇者「はぁぁ!!ハァハァ…まだかっ…!」

偵察「数が多すぎるぜ!」

ガシャアアン!

村娘「う、裏の壁が!」

自衛「隠れてろ!」キンッ

自衛は裏から侵入した集団に手榴弾を投げ込む

ボグァァン!

村人J「あ゛あ゛ーー…!」

村人K「あ゛ーー…!」

奥の方の村人達は吹き飛んだが、手前の村人達は変わらず迫ってくる

自衛「近すぎて使えねぇ!」ダンダン

ミシミシ…ガラガッシャーン!

村娘「ひゃぁぁ!?」

村人L「おおおおおーー…」

村娘「ひっ!」

ボウッ!

村人L「お゛っ!」バシュッ

偵察「上から降ってきやがった!」

君路の勇者「二階も破られたのか!?」

自衛「野郎!」キンッ

自衛は天井に開いた穴から、二階に手榴弾を投げ込む

ボガァッ!

ボサボサッ!

爆発音、そして二階から村人の死体が降ってくる

君路の勇者「村娘さん!隅に隠れて!」

偵察「いよいよもってやばいぜこいつは!」

自衛「手を休めるな!攻撃を続けろ!」

村娘「うう…!?あ、あの、何か聞こえませんか!?」

偵察「何かって…?」

グシャァァァン!

次の瞬間、裏から見える家屋が倒壊し指揮車が現れた

君路の勇者「あれは!?」

自衛「シキツウだ!」

指揮車は村人の集団を跳ね飛ばし、こちらへと走り込んで来る

ガシャァァン!

偵察「おわっと!」

村娘「きゃあ!?」

指揮車は屋内に突っ込み停車、左側のハッチが開く

衛生「士長、探しましたよ!…あれ?そちらは村で会った…」

自衛「衛生、後だ!そこの娘を指揮車に乗せろ!」

衛生「わかりました!」

村娘「あ、あの、これは一体…!?」

自衛「大丈夫だ!とにかく、助かりたければ早く乗れ!」

村娘「ひぅ!は、はい!」

衛生「頭ぶつけないよう気をつけて!」

82車長「おいおい!何がどーなってんだ!?」

自衛「いいから、50口径でこいつら黙らせろ!」

82車長「クッソ!」

ドドドドドドドドド!!!

村人M、N、O「オボッ!」「あ゛がっ!」「お゛っ!」

自衛「勇者、離脱する!お前も指揮車に乗れ!」

君路の勇者「あ、ああ、わかった!」

偵察「急げ!」

勇者と村娘を収容する間、偵察と自衛はまとわりつく村人を退ける

衛生「収容完了しました!」

自衛「よし偵察、飛び乗れ!」

偵察と自衛は指揮車の屋根に飛び乗る

82車長「離脱だ!」

82操縦手「はい!」

指揮車はエンジンを吹かし、後進する

ドサッ!

偵察「!」

村人P「おおおおおーーー…」ノソッ

82車長「おわっ!?車体の上に!」

自衛「無賃乗車すんじゃねぇ!」

自衛は村人の頭に鉈を振り下ろす

村人の首と胴体は離れ、首だけを残し胴体はそのままずり落ちていった

自衛「こいつは乗車賃だ…」

指揮車は村人の大群を跳ね除け、村を後にした


村から1km地点


衛生「落ち着いた?」

村娘「はい…」

衛生「足はすぐによくなる、他に怪我がなくてよかった。」

偵察「さっそくで悪りぃが教えてくんねぇか、一体あの村で何が?」

村娘「…ごめんなさい、私にもわかりません…月橋の街までの使いに村を発って、
   今日の夕方前にやっと帰ってきたら…」

自衛「あの事態か。あんたはどれくらい村を離れてたんだ?」

村娘「一週間ほどです…」

偵察「その間になんかあったんだな…」

自衛「勇者、お前は何かわからないか?」

君路の勇者「すまないが何も…正直、さっき目にした光景だって
      まだ信じきれていないんだ…」

偵察「それに関しちゃ俺達も同じだけどな…」

君路の勇者「それよりも、一番心配なのは戦士の安否だ…」

偵察「戦士…って、確かあの甲冑着た短いポニテのねーちゃんだったよな?」

衛生「そういえば、あとの二人を見てないが…」

君路の勇者「騎士と僧侶の二人は別ルートを使ってる」

自衛「別ルートがあるのか?」

君路の勇者「かなり遠回りになるけどね。途中にある町への使いを頼んだんだ。
      僕と戦士は最短ルートで月橋の街へ向かい情報を収集し、
      街で二人と落ち合うことになっていた…」

自衛「その道中であの村を見つけたわけか。」

君路の勇者「休憩目的でね、でも村に入るなり
      村人に追いかけられてる村娘さんを見つけて、逃げ回る羽目になってな。
      戦士は途中で囲まれた時に、時間を稼ぐと言って囮に…」

村娘「ごめんなさい…私のせいで戦士さんが…」

君路の勇者「よしてくれ、あの判断を下したのは戦士自身だし、
      それを受け入れて君を連れ出したのはこの僕だ、君のせいじゃない。」

偵察「…で、その後、逃げる途中で俺等と鉢合わせしたってか…」

自衛「あの村がどうしてああなっちまったかは、誰もわからねぇわけだな…」

衛生「情報が少なすぎます…」

君路の勇者「ああ、だが僕の立場としては、このまま放って置くわけにはいかない。
      それにあそこは村娘さんの住む村だし、戦士も助け出さなければ!」

82車長「俺達はどうする?正直言えば関わりたくない山だが…」

自衛「あれを見ちまった以上、素通りするわけにもいかねぇだろう。」

偵察「もう一度乗り込むしかねぇか…」

82車長「異論のある奴は………良し、決まりだ!」

自衛「各自装備を整えろ。じき暗くなる、暗視スコープを忘れるなよ。」

君路の勇者「すまない、本来君達には関係の無いことなのに…」

自衛「村では助けてもらっただろ、お互い様だ」


指揮車の近く


衛生「これが動いてたなんて信じられませんよ…」

偵察「だが、こいつらは歩いて俺達に襲い掛かってきたんだ、お前も見たろ?」

村娘「?…あの、なにを…ひっ!?」

衛生「あ、いけね…」

村娘は悲鳴を上げて後ずさる

衛生の手に、先程自衛が切り落とした村人の生首があったからだ

衛生「悪い悪い、今隠すから。」

衛生は生首をビニールで包み、指揮車の中に隠す

偵察「大丈夫か?」

村娘「は、はい…あ、あの…一体な、何を…?」

衛生「そんなにビビるなって、ちょっと検死をしてただけだから」

偵察「無茶言うなよ、普通生首見たらビビるだろ…」

村娘「あ、あなた、お医者様なんですか…?」

衛生「そんな大層なもんじゃねぇよ、心得が少しあるだけだ。」

偵察「よく言うぜ…」

村娘「あの…村の人達、本当に……死んじゃったんですか…」

衛生「…ああ、おそらく…さっきの首はけっこう腐敗が進んでたからな、
   少なく見積もっても二日前には…」

村娘「……」

衛生「彼らが動いていたのは個人の意思じゃないだろう、
   何かはわからないが別の原因によるものだと思う。」

村娘「そうですか…あ、ありがとうございます…」

村娘はその場から去った


偵察「本当にあの娘を連れて行くのか?」

自衛「他に安全な場所があるか?ここに置いて行くよりは
   シキツウの中のほうがよっぽど安全だ。」

偵察「そりゃ、そうだがよ…」

自衛「わかってる、82車長。終わるまであの娘には外を見せないようにしてくれ。」

82車長「わかった。」

自衛「よし、全員乗車。行くぞ。」


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